乙川河川敷整備についての意見書

愛知県知事 神田真秋殿
                         岡崎市材木町2-64 ユタカビル3F  
                         市民オンブズ岡崎 (代表 渡邉研治)
                          連絡FAX(0564)52−7154
              乙川河川整備計画についての意見書

 乙川河川整備計画には、治水、利水、環境の三つの目標が掲げられ、実施内容としては、男川ダムの建設、遊水池の建設、中流部の河道改修があげられています。
 まず治水に関して意見を述べたいと思います。
 昭和46年8月の洪水で実際に大きな被害が発生していますので、少なくとも同規模の雨が降っても災害が発生しないようにすることは当然必要なことと思います。その対策として、遊水池の建設と河道改修については、自然環境への十分な配慮が必要ですが、その効果は理解できます。しかし、男川ダムについては、仮に環境に対する影響を考えないとしても、投資額に比べその治水面での効果に疑問があります。
 「一級河川矢作川水系乙川圏域河川整備計画(案)」(平成12年12月愛知県)によれば、乙川全体の流域面積が258kuであるのに対し、男川ダムの集水面積は9.7kuでその占める割合は3.8%にしかなりません。これは長時間乙川流域全体に均等に雨が降ったときに、ダムで全雨量を貯めたとして下流部での全河川流量の3.8%をカットする効果があることになります。
整備計画案では男川ダムで35m3/sカットするとなっており、下流部の最大流量1600m3/sに対し、その割合は2.2%にしかなりません。
 実際には、雨の降り方は場所によってまちまちで、かならず2.2%の流量カットが期待できるとは限りません。むしろ被害が予想される下流部・中流部からいちばん離れた最上流部にあたるので実際の効果はもっと小さいのではないかと予想されます。
 確実とは言い切れない2.2%のカットのために173億円(男川ダム建設工事計画表より)かける必要があるのでしょうか。ダムは川の自然環境を再生不可能な形で破壊します。人間の生活にどうしても必要というのならそれでも考える必要があるかと思いますが、本計画での効果の低さから考えてダムを造る必要性は感じられません。
 それよりも、他の方法で洪水時の河川流量の減少に努めるべきだと思います。簡単にいえば川に流れ込む水の量を減らすことで以下のようないくつかの方法が考えられます。
 ・上流森林地帯で保水力の小さい杉などの針葉樹の植林から、その土地に自
  然状態で適合する保水性の高い広葉樹に変える。また、人工樹林での間伐
  促進するため予算措置を講ずる。
 ・流域委員会の議論の中で中根前岡崎市長が繰り返し発言されていた田んぼ
  による貯水能力の減少がある。今、国の減反政策により休耕田が増えてい
  ると思うが、休耕田を整備してより多く水を貯められるようにする。
  また、当面緊急な洪水対策として、現在遊水地計画地となっている田畑一
  帯の周囲を堤防と同じ高さ約3メートルから5メートル(岡崎市水道局が
  安全とした土盛と同じ高さ)の土盛ないしはコンクリート塀を設け、乙川
  から洪水時には遊水地として利用できるよう水門を作っておき、万一洪水
  の危険があった場合は水門を解放し、水田を遊水地として利用する。利用
  した場合はそこでの農作物の予定収量分の補償する。
 ・下水道整備に伴う廃止浄化槽を撤去するのではなく、雨水貯水槽として活
  用する。他都市ですでにそのための補助金をもうけているところもある。
 ・透水性舗装、排水性舗装、保水性舗装の実施と拡大。国土交通省は平成1
  3年2月28日に発表した「新しい道路構造に関する基準検討案」で「今
  後は、都市部の道路の舗装は原則として雨水を地下に円滑に浸透させると
  し、環境負荷を低減する道路構造とする」として、方針化している。
 ・浸透枡や浸透トレンチにより降った雨水を直接川に流さず地面に浸透させ
  る。
 ・公共施設を中心に地下に雨水貯水槽に義務づけまたは奨励する。貯水槽も
  地下への浸透式を優先的に考える。
 以上のようなことを実施すれば、洪水時の河川水量の減少が図れるとともに、地下水を涵養することにより渇水時の河川流量の増加を図ることが出来ます。
 次に利水について意見を述べます。
 利水計画としては、額田町の上水道用として新たに一日あたり2500m3の新規水利権の確保が上げられています。その理由として第2東名額田インターを前提にした工業団地立地計画があり、誘致企業に給水することが上げられています。
 しかし、いま製造業は非常に厳しい状況にあり、倒産、工場閉鎖が少しも珍しくない時代です。愛知県の工業団地立地計画を見ても後退しているのが実情です。さらに現小泉内閣は新規道路の建設を大幅に抑制するとしており、第2東名も例外ではありません。こうしたことを考えますと、現状では新規工業団地立地計画には無理があります。さらに現状の額田町内30人以上の事業所での工業用水1573m3の内582m3しか公共水道に頼っていない(「あい
ちの工業」平成11年版)ということを考えますと、新たに一日あたり2500m3mの新規水利権の確保というのははなはだ過大な数値設定でもあり、そのためのダムの必要性には説得力がありません。
 では新規工業団地立地以外の水道水の需要増加はどうでしょうか。額田町の人口は平成5年をピークに、この10年間は9700人前後から徐々に減る傾向があります。(愛知県統計年鑑)しかし給水人口は水道普及率の増加に伴って徐々に増えており、平成11年度は、給水人口8901人、普及率91.64%です(額田町「2000年版統計」から)。
 普及率100%を目指すとすれば8.36%現状より多く水を給水する必要があり、水需要の増加を考慮しなければなりません。しかし、現状の配水量に対する有収水量の占める割合である有収率は79.28%で、約20%ロスがあります。愛知県全体の水道の有収率93.6%(平成10年版「愛知の水道」)から見てもかなり低い数値です。配水量では現状で充分足りており、有収率を10%あげることができれば、全人口への給水は可能です。但し額田町の上水
は6ヶ所の簡易水道に分かれていますので、有収率を上げて余裕が出たところから不足するところへ送水するよう施設を整備する必要があります。
 最後に河川環境保全に関して意見を書きます。
 河川環境保全のために茅原沢で最低流量を灌漑期2.5m3/s、非灌漑期1.8m3/sと設定しています。これは、万が一ダムを造った場合であっても、河川を干上がらせないために最低限の流量として確保するとして当然考えなければいけないことです。
 川をコンクリートで固めるダムは、自然環境を大きく破壊するものです。そして崩れた自然環境を復元しようとしても数十年の年月を要します。その間に絶滅する動植物もあるでしょう。自然環境を守ることを考えるなら、そもそもダムを建設すべきではありません。
 ダムサイトとなる鳥川に生息する天然記念物ネコギギの幼魚は清流の岩陰に集団で生息しており、ゲンジボタルはその食餌であるカワニナが生息する環境がなければ生きていけません。この保護について近隣の河川に移せば足りるとする安易な予測は危険です。
 ダムのない自然状態でなおかつ最低流量が少ないようなら、すでに述べた流域全体の保水力を上げる方法を検討すべきです。
 以上、治水、利水、環境のどの観点からも、男川ダム建設に賛成できません。
よって、男川ダム建設工事を中止するよう求めます。

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